もう亡くなっている。彼は大手のお酒の広告に、バーの切り絵が掲載され、一斉を風靡した。

彼はラッキーなスタートを切った人だ。著名な小説家の著名な奥さんが、天才だといって、彼を持ち上げ記事にも書いていた。

多分切り絵を見たことがなかったんだと思う。だから舞い上がった。

そして、彼は出版社回りを始めたのである。ところが、彼はことごとくどの出版社からも「百鬼丸さんがいるから、難しい」といわれたと、本人が俺に言った。

展覧会には「百鬼丸さんのテクニックを盗みにきました」と言ってやって来た。

少し経って、お酒の会社の広告担当者が、俺の展覧会にやって来た。切り絵の第一人者は「◯◯さんですよね」と彼の切り絵作家の名を出す。

彼は切り絵の第一人者と言っていたらしい。

たまに、月刊小説誌に挿絵が載ることがあった。人物を見ると動きも表情もない顔が並ぶ。多分人物の顔写真をトレースして切ったんだと思う。

全くレベルの低い切り絵だった。小説の挿絵は人物を活き活き描かないと、難しい。

昨日パーティーがあり、ある切り絵作家と話していたら、彼の名が出た。「百鬼丸さんは、前にこのパーティーに来ていたけど、◯◯さんが、百鬼丸さんを呼んだんですよね?」◯◯さんがそう言っていたらしい。

俺を彼がパーティーに勧誘するような関係ではない。

嘘だ。

不思議な人だ。

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